金色の風の軌跡

#6









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 アウラが旅に復帰したのはそれから二日後のことだった。体調も回復したのか、いつもと変わりない彼女の様子に仲間たちがほっとするなか、レムオンはアウラに歩み寄る。
「すまなかった」
「え?」
 レムオンがアウラの首筋に触れる。そこにはまだ包帯が巻かれていた。
「あぁ、大丈夫よ。もう塞がってるし」
「……痕になってしまったかもしれない」
「別にそんなの。そんなこと言ったらわたし、身体中どこもかしこも傷だらけよ」
 からっと笑ってアウラは言う。身体のいたるところにある傷痕は冒険者としての証だ。今さら傷のひとつやふたつ増えようが気にすることもない。
 だがそれを聞いたレムオンはいっそう苦し気に眉を寄せた。
「おまえは……いつもそんなに傷ついてきたのか」
「やだなレムオン。これくらい冒険者としては当たり前っていうか」
「俺は……おまえのことをわかっていたつもりだが、わかっていなかったのだな」
 たまに邸に顔を見せにきては冒険の話や他国の情勢などをアウラは話した。だが実際は、レムオンの想像を越える危険も少なからずあったに違いない。
 戦争に関してもそうだ。レムオンはアウラを戦場になど行かせたくなかったのだ。
「なら、これから知っていけばいいじゃない。レムオンも冒険者になったんだし」
「あぁ、そうだな。これからは俺がおまえを守ろう」
「え?」
 アウラが訊き返したとき、他の仲間に呼ばれ、話はそこで終わった。





 そんなある日、立ち寄ったギルドでカルラからアウラに、出頭命令が出ていることを知らされた。カルラとノーブル伯のアウラは敵対する立場。命令に従う義務はない。さらにロストール侵攻ではゼネテスとアウラによって敗走を強いられたのだ。レムオンはもちろん、仲間は反対したがリーダーのアウラはロセンへ向かうことを決行した。カルラから、部下であるアイリーンの捜索を頼まれた。第二次ロストール信仰以降、リベラダムでアウラと会ったのを最後に消息がわからないのだという。互いに敵同士だがカルラにとってそんなことはおかまいなしらしい。使えるものは敵でも使う――それがカルラという人間のようだ。レムオンは初めてカルラと対面したが、そのあけすけで破天荒、しかし抜け目なく狡猾そうな青竜将軍に、侮れないと思うと同時に少々毒気を抜かれてしまった。そんなカルラに、同行するほかの仲間は憤慨していたが、アウラもレムオン同様拍子抜けしてしまったらしい。
 後で聞いた話だが、アウラはカルラと何度か面識があるらしく、ロセン侵攻では一触即発の状態にまでなったという――それを聞き、何度危ない橋を渡っているのかと、レムオンはアウラを叱りたくもなったが――それはそれ、これはこれ、とでも言うかのようなあっけらかんとした彼女の態度に、わずかな仲間と敵地に乗り込んだ四面楚歌状態の緊張感も霧散するほど。どちらにせよこの依頼、リベラダムで会ったアイリーンの様子が少しおかしかったのが気になっていたというアウラにとって是非もなかったようだ。カルラのほうも、アイリーンを生きて連れて帰ったら、という条件で報酬を支払うと言っている。それはつまり、ノーブル伯としてのアウラに助力を請うのではなく、いち冒険者としての彼女に依頼する、というスタンスを強調する意図があるのだろう。そして報酬を支払うということは、この件では貸し借りなし、ということでもあるのだ。
 かくして彼女は廃村で見つかったが、アイリーンとカルラが仲間になった。カルラとはロセンで拉致された女性を救うため、一時的に協力関係にあったこともあるというが、もちろんたったそれだけの情でついてくるほど安い相手ではない。
「あたしを仲間にしたいんなら世界のひとつでもくんないと」
 そんなカルラの冗談に、ならば世界をくれてやると答えたアウラをおもしろがり、仲間になることを承諾したのだ。
 敵に回せば手強い相手だが、味方としてならたしかに、これ以上ないほど頼もしい相手だろう。カルラもカルラだが、そんな彼女を仲間にしてしまうアウラの破天荒さにもレムオンは驚き呆れてしまった。
「少し見ないあいだに新顔が増えてるじゃないか――って、そこにいるのは青竜将軍のカルラか? まったく、おまえさんは本当に……たいした人たらしだな」
 忙しなく駆け回ったあと、ようやく合流したゼネテスはアウラに向かって笑った。
 そのあともゼネテスの言葉を証明するかのごとく、訪れた先で仲間が増えていく。
 そんな折立ち寄った猫屋敷で、オルファウスから第二次ロストール侵攻以降消息不明のネメアを救出する手立てを提案された。
 だがこのときはまだ誰も予想しなかった。まさか彼女を失うかもしれないことになろうとは。